「本日をもって営業を停止します」
従業員の前でこの言葉を発する瞬間まで、私は何度も練習しました。しかし、実際には大きな失敗を犯してしまい、従業員との信頼関係を損ねる結果となりました。
この記事では、会社倒産時の従業員への告知について、私が実際に体験した失敗談を正直にお話しします。専門的なアドバイスではなく、一経営者の体験談として、同じような状況に直面する方の参考材料の一つになれば幸いです。
※この記事は個人の体験談です。法的手続きや労務関連の詳細については、必ず弁護士や社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
倒産告知までの準備期間|2週間で何をしたか

Xデー設定の根拠
弁護士に相談した結果、倒産告知日(Xデー)を約2週間後に設定しました。
2週間という期間の理由:
- 破産申し立ての資料準備に必要な期間
- 資金の算段と整理(1ヶ月はもたない状況)
- 関係者への被害を最小限に抑える準備
従業員に気づかれないための工夫
この期間中、破産準備を従業員に気づかれないよう進めることが最優先でした。
実際に変化した行動:
- 給料の支払いタイミングの調整
- 支払い優先順位の変更
- 資料整理の頻度増加
従業員から「最近、支払いを変えるんですね」と言われたときは、「その方が良いと思ってね」と答えて乗り切りました。
告知の言葉選びで悩んだ数日間
避けるべき表現とその理由:
- 「本日で破産します」→ 破産は裁判所の決定なので法的に不正確
- 「本日で倒産します」→ 曖昧で従業員には意味が伝わりにくい
最終的に選んだ表現: 「本日をもって○○社は営業を停止します。簡単に言うと倒産です。最終的に破産という手続きになろうかと思います。」
この表現を選んだ理由は、「営業停止」が事実として正確で、「倒産」で状況を理解してもらい、「破産」で今後の流れを示唆できるからでした。
告知当日|従業員の予想外の反応

午前10時の全体告知
震える手で準備していたメモにチラッと目をやり話し始めました。
告知内容:
- 営業停止の発表
- 今後の手続きについて
- 私物の片付けと退社時間の指定
- 解雇通知書の手渡し
従業員の冷静すぎる反応
予想していた混乱や質問攻めとは裏腹に、驚くほど冷静でした。おそらく薄々感じていたのでしょう。むしろ「やっぱり」という表情の人が多く、私の方が拍子抜けしました。
実際に出た質問:
- 「給料はどうなりますか?」
- 「離職票はいつもらえますか?」
- 「有給休暇の扱いは?」
解雇通知書を一人ずつ手渡しした後、私は社長室に戻り、従業員が退社するまで待機しました。
私が犯した致命的な3つの失敗

失敗①:根拠のない楽観的な約束
言ってしまった言葉: 「従業員の給料は最優先になるので、1ヶ月以内に未払いの賃金は払えると思います」
なぜ問題だったのか:
- 法的根拠のない楽観的な約束
- 破産管財人の判断を無視した発言
- 従業員の期待を不当に上げた
現実: 実際の支払いは3ヶ月以上先になり、急いで訂正メールを送りましたが、既に信頼は失われていました。
失敗②:解雇予告手当についての曖昧な説明
解雇予告手当についても「払えると思います」という曖昧な表現しかできませんでした。結果的に、これも支払うことができず、従業員からの信頼をさらに損ねました。
失敗③:専門家との事前相談不足
破産管財人との話し合いで、私の発言が完全に間違いだったことを知りました。事前に専門家と相談していれば避けられた失敗でした。
告知後の実務対応|やるべきこと・避けるべきこと

告知直後の対応
体験談として参考になりそうなこと:
- 個別の質問への丁寧な対応
- 今後の連絡のための確実な連絡先確保
- 私物整理のための十分な時間提供
私が反省している対応:
- 過度に感情的な謝罪(従業員の不安を煽ってしまった)
- 不確実な約束(私のような失敗の原因)
- 責任転嫁の発言(信頼を失う要因)
実際に必要だった手続き(私の経験から)
私の場合、以下のような手続きが必要でした:
緊急性が高かった手続き:
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 離職証明書の作成
- 保険証の回収と各種届出
- 源泉徴収票の発行
未払い賃金について: 独立行政法人労働者健康安全機構の立替払い制度があることを後から知りました。この制度について従業員に説明できれば、不安軽減につながったかもしれません。
※具体的な手続きの詳細や期限については、必ず専門家にご確認ください。
経営者として気をつけたい5つのポイント(私の失敗体験より)
1. 法的な正確性について(私が学んだこと)
「思います」「おそらく」などの曖昧な表現で期待を持たせてしまった私の失敗から、わからないことは「専門家に確認してから連絡します」と正直に伝えることの大切さを学びました。
2. 専門家との相談について(私の反省点)
事前に破産管財人や弁護士と相談せずに従業員への説明をしてしまい、後で大きな訂正が必要になりました。事前相談の重要性を痛感しています。
3. 想定される質問への準備(私の体験から)
当日は想定外に冷静な反応でしたが、それでも給料や手続きについての質問は出ました。専門家と事前に確認しておくことの大切さを感じました。
4. 従業員の生活への配慮(体験して気づいたこと)
給料や失業保険など、生活に直結する情報への関心が最も高いことを実感しました。正確な情報提供の重要性を学びました。
5. 感情と事実を分けて伝えること(私の反省)
感情的にならず、事実を冷静に伝えることで、想定していたパニックを避けることができました。
まとめ|一経営者の体験談として

倒産の従業員への告知は、経営者にとって最も辛い瞬間の一つでした。私の失敗体験から学んだ最大の気づきは、「正直であることの大切さ」です。
辛い現実であっても、従業員に正直に伝え、できることとできないことを明確に区別することが重要だと感じました。
私の失敗を繰り返さないためにも、同じような状況に直面した際は、必ず知識豊富な専門家に相談することをおすすめします。
重要な注意事項: この記事は個人の体験談であり、法的アドバイスではありません。倒産手続きや労務関連の詳細については、必ず弁護士や社会保険労務士等の専門家にご相談ください。状況により対応方法は大きく異なります。
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