今回は、メインバンクから派遣されてきたコンサルタントK氏との6ヶ月間について、包み隠さずお話しします。
製造業を営む私の会社は当時従業員50名、売上6億円の規模でしたが、赤字が毎年1000万円以上発生していました。銀行から来た彼と経営再建の計画を立てることで、希望に満ちた未来を得るはずでした。
しかし、半年にわたる緻密な経営再建計画は、私の致命的なミスで崩れ去りました。そして最終的に、会社は倒産という結末を迎えることになります。
倒産を経験した経営者として、同じ境遇の製造業経営者の方々に、この失敗から得た教訓をお伝えします。なぜ彼がやってきたのか、どんな計画を立て、なぜ絶望的な結末に至ったのか。リアルな体験談として記録に残します。
15年目で迎えた経営危機:売上減少と1000万円赤字の現実

3代目として継承した会社の変遷
私は3代目経営者として、社長になって15年が経っていました。製造業という業界の特性もあり、長年安定した経営を続けてきましたが、ここ数年で状況が一変しました。
当時の会社概要:
- 業種:製造業
- 従業員数:約50名
- 売上規模:6億円
- 当期赤字:1000万円
毎年10%ずつ減少する売上への対策が全て裏目に
最も深刻だったのは、毎年10%ずつ下がっていく売上でした。危機感を持った私は前向きな拡大戦略を次々と実行しました。新商品の開発、営業体制の強化、設備投資の拡充…しかし、全てが裏目に出てしまい、経営は一向に改善しませんでした。
むしろ、積極的な投資が裏目に出て赤字を拡大させる結果となったのです。15年間経営者として様々な経験を積んできた自負がありましたが、この状況には完全に行き詰まりを感じていました。
10年間で蓄積されたデータが示す経営課題
銀行との取引はまだ健全な状態を保っていましたが、財務内容の悪化により、銀行からはかなり注目され、様々な書類を提出する日々が続いていました。過去10年間の決算書、得意先・仕入先との取引データなど、会社の全貌を示すあらゆる資料の提出を求められていました。
メインバンク本部から派遣されたコンサルタントK氏の実力

費用負担なしの銀行サポート(落とし穴の始まり)
そんな状況の中、ある日銀行の担当者から「弊行の本部にコンサルタント事業をやっている部署があり、一度会ってみないか」という話がありました。
経営に悩んでいた私は、藁にもすがる気持ちで快諾しました。しかも費用や報酬は一切不要とのこと。メインバンクからのサポートということで、「これで会社は救われる」と心から安堵したのを覚えています。
5倍規模企業の再建実績を持つプロの登場
やってきたコンサルタントK氏は私よりも一回りほど若く、身体もがっしりしてとてもエネルギッシュに感じました。彼は過去に私の会社の5倍規模の企業を再建した実績を持つ、正真正銘のプロフェッショナルでした。
私には「この人の言うことを聞いていなければ銀行から切られる」という恐怖感があり、必死でついていきました。K氏はとても厳しい方で、メールでの甘いコメントをきつく叱責したり、かなり無理なスケジュールで資料を要求してきたりしました。
「会社がピンチなのに、なんで寝てるんですか?」レベルの人で、寝ないで働く彼に引きずられ、その頃の私は平均の睡眠時間が5時間を切っていたと思います。
過去10年の決算書・取引先データを完全分析した驚愕の資料
K氏が作成してきた分析資料は、そこらのコンサルタントとは比較にならないほど充実したものでした。過去10年間の決算書から得意先・仕入先のデータまで、会社のあらゆる情報を完璧に分析し、見事な分析表にまとめ上げてきたのです。
この分析力と資料作成能力を目の当たりにして、「この人になら会社を任せられる」と確信しました。そして同時に、「メインバンクのコンサルなので敵ではない」「本部からコンサルを派遣してきている以上、切られることはない」という安心感も芽生えていました。
通信販売部門10倍成長計画:希望に満ちた6ヶ月間

そこらのコンサルを圧倒する分析力と計画立案
K氏は以前にも別の会社を立て直した実績があり、その手法を用いてどんどん計画を立てていきました。膨大な会社の資料をもとに、私の会社の状態を細かく分析し、経営が改善できそうな切り口を見つけ出していきました。
特に注目したのが通信販売部門でした。当時は規模が小さかったものの、利益率が高く成長の可能性を秘めていたこの部門を、なんと10倍の規模に成長させる計画を立案したのです。
従業員50名のモチベーション向上プロセス
K氏は計画立案だけでなく、従業員との関係構築にも力を入れました。会社の営業会議にも参加して会社の危機を従業員たちと共有し、気持ちをまとめてくれるのにも協力してくれました。
従業員50名のモチベーションは日に日に上がっていきました。これまで先の見えない不安を抱えていた社員たちが、K氏の明確な計画と力強いリーダーシップに希望を見出していったのです。私自身も、久しぶりに会社の未来に光を感じることができました。
「メインバンクのコンサル=切られない」という致命的な勘違い

そうして半年後、順調だった通信販売部門を大幅に伸ばす売上アップの計画や、私の交際費のカットなど経費の削減計画を盛り込んだ5年間の中期経営計画書が完成間近となりました。
従業員たちの士気も上がり、「これから会社は蘇る」と確信していました。そして何より、「メインバンクが本部からコンサルを派遣してきているのだから、この計画が通らないはずがない」という根拠のない安心感を持っていました。
この勘違いが、後に致命的な油断を生むことになるのです。
取引条件見逃しによる計画崩壊:最後の最後での大失敗

多忙を理由にした確認作業の後回し(経営者として最大の反省点)
概ね完成した中期経営計画書は、最終の微調整と本部の稟議を残すのみになっていました。そこで私が最大のミスをしてしまったのです。
ミスというのは、大口の仕入先に対する取引条件のことでした。これまでは何も問題はありませんでしたが、以前にK氏から確認を求められたときに「問題ありません」と生返事をしていたのです。
実は、他の業務が忙しくもあり、この確認作業を後回しにしていました。経営者として、これは完全に言い訳のできない怠慢でした。
そして最終の確認をしたところ、条件が大きく変わり担保が必要になっていたことが発覚したのです。
K氏の憤りと意気消沈した表情の記憶
私はそれが判明した時点ですぐにK氏に連絡しました。しかしこれは今回の経営計画の柱とも言える部分で、前もって分かっていれば問題なく対応できましたが、最後の最後で発覚したというのは致命的でした。
これは直接聞いた訳ではありませんが、条件が変更されていた事よりも、そんな大切な部分を確認していなかった私の姿勢を問題にされたのだと思います。
あの時のK氏の憤ったというか意気消沈したというか、あの顔が忘れられません。6ヶ月間、寝る間も惜しんで作り上げてきた計画が、私の一つの確認ミスで水の泡になってしまったのです。
本部稟議で却下された瞬間の絶望
その他に計画書には希望的な売上数値があったことも指摘されたようで、計画は実行不可能として本部の稟議は通りませんでした。
通信販売部門10倍成長という希望に満ちた計画、従業員のモチベーション向上、K氏との信頼関係…全てが一瞬で崩れ去った瞬間でした。
その後、銀行からは新規融資の打ち切り、M&Aの推進ということになっていくのですが、それはまた別の機会にお話しします。
製造業経営者が学んだ3つの痛恨の教訓

今回、せっかく作った中期経営計画は私の大失敗で取り消されたわけですが、今振り返ってみるとそれ以前にも取り組み姿勢には甘さが溢れていました。
確認作業の軽視:「忙しい」は言い訳にならない
最後の引き金は取引条件の確認ミスでしたが、それ以外にも生返事をして後から修正したことが何度かあり、K氏に嫌な顔をされていました。
経営者として、会社の命運を左右する重要な確認作業を「忙しい」という理由で後回しにしたことは、完全に私の責任です。何事も念入りに確認するという緻密さが決定的に不足していました。
特に製造業の場合、仕入先との取引条件は経営の根幹に関わる重要事項です。これを軽視したことが、全ての計画を台無しにしてしまいました。
受動的姿勢の危険性:コンサル依存から抜け出せなかった愚
当時のK氏は確かに圧倒的な実力者でした。しかし、この計画業務を本当に自分の事として進められていたか疑問です。
私は「K氏の言うことを聞いていれば大丈夫」という受動的な姿勢に陥っていました。もっと積極的にK氏に食らいついていく姿勢、自分が主体となって会社を変えていくという覚悟があれば、銀行にも認められたかもしれません。
勘違いによる油断:銀行派遣だから安心という思い込み
最も危険だったのは、「メインバンクからコンサルを派遣してきているのだから、この計画は必ず通る」という根拠のない安心感でした。
確かに費用負担もなく、銀行のサポートを受けられるという状況でしたが、それが成功を保証するものではありませんでした。むしろ、この油断が最後の確認作業を疎かにする原因となってしまったのです。
同じ境遇の中小製造業経営者への実践的アドバイス

銀行派遣コンサルとの正しい付き合い方
銀行からコンサルタントが派遣される場合、それは会社の状況がかなり深刻であることを意味します。しかし同時に、まだ銀行が会社の再建可能性を信じているということでもあります。
重要なのは以下の点です:
- コンサルタントに全て任せるのではなく、経営者自身が主体的に関わる
- 銀行派遣だからといって成功が保証されているわけではない
- 厳しい指導も会社のためと受け入れ、真摯に対応する
- 報告・連絡・相談を徹底し、隠し事は絶対にしない
経営再建時に絶対に確認すべきチェックポイント
製造業の経営再建において、以下の項目は必ず詳細に確認してください:
取引先関係
- 主要仕入先との取引条件(支払条件、担保の有無)
- 主要得意先との契約条件(支払条件、継続性)
- 新規取引の可能性と条件
財務・資金繰り
- 月次の資金繰り予測(最低6ヶ月先まで)
- 設備投資の必要性と優先順位
- 在庫の適正水準と回転率
人事・組織
- 従業員の雇用維持可能性
- 重要人材の流出リスク
- 組織のモチベーション管理
「他に選択肢がない」状況での心構え

私の場合、あの時点で他の選択肢はありませんでした。しかし、だからこそ以下の心構えが重要だったと反省しています:
- 最後の機会だからこそ、全力で取り組む覚悟を持つ
- 小さなミスも致命傷になることを肝に銘じる
- 依存ではなく、パートナーシップの関係を築く
- 従業員や家族への責任を常に意識する
その後の展開:M&A推進から倒産までの道のり

新規融資停止からM&A検討へ
経営再建計画が頓挫した後、銀行からは新規融資の打ち切りが通告され、M&Aによる事業継承の検討を求められることになりました。
この時点で、私は経営者として会社を守ることができなかったという現実を受け入れざるを得ませんでした。M&A交渉の過程、そして最終的に倒産に至るまでの道のりについては、別の記事で詳しくお話ししています。
「中小企業のM&A「失敗談」から学ぶ警告|経営者が陥る落とし穴と“まだ間に合う”対策」
倒産を経験した経営者として伝えたいこと

結果的に会社は倒産という結末を迎えました。従業員50名とその家族、取引先の皆様には多大なご迷惑をおかけしてしまいました。
しかし、この失敗体験を通じて学んだ教訓は、同じ境遇で苦しんでいる経営者の方々の役に立つはずです。成功事例も大切ですが、失敗事例から学べることも多いのです。
最も重要な教訓: 経営再建は経営者自身が主体となって取り組むものであり、どんなに優秀なコンサルタントがいても、最終的な責任は経営者が負うということです。
この苦い経験が、誰かの糧になれば幸いです。同じような状況で悩んでいる経営者の方がいらっしゃいましたら、ぜひコメントでお聞かせください。
のぼる社長の倒産リアルブログでは、実際に倒産を経験した経営者の視点から、リアルな経営の現実をお伝えしています。
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