本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別具体的な判断については、必ず社会保険労務士や弁護士等の専門家にご相談ください。最新の法令・制度は変更される可能性がありますので、実際の手続きの際は関係機関に確認することをお勧めします。
はじめに:制度と実務のギャップを埋める
会社の倒産は経営者にとって非常に辛い決断ですが、その際に忘れてはならないのが従業員への適切な対応です。特に離職票の作成・交付は、従業員の生活に直結する重要な手続きとなります。倒産時の離職票は通常の退職とは異なる特殊な処理が必要であり、適切に対応することで従業員の失業給付をスムーズに受けられるようにすることができます。
※本記事は制度や法的手続きの流れを解説していますが、筆者自身が倒産を経験した元経営者として、制度には書かれていない現場のリアルな課題(書類収集の苦戦、従業員対応の精神的負担など)を、末尾の【私の体験談】で詳しく述べています。制度と実務の両面を知りたい方は、ぜひご一読ください。
離職票の基本:種類と倒産時の「会社都合」優遇
基本的な定義と役割
離職票とは、従業員が離職したことを証明する公的書類で、雇用保険の基本手当(失業給付)の受給手続きに必要となります。正式には「雇用保険被保険者離職票」と呼ばれ、ハローワークが交付しますが、会社を通じて発行手続きを行います。
離職票は「離職票-1」と「離職票-2」の2種類があり、離職票-1は雇用保険の被保険者であったことを証明し、離職票-2は離職理由や賃金支払状況などの詳細情報が記載されています。特に離職票-2は失業給付の金額や給付日数を決定する重要な書類となります。

倒産時の特殊性
倒産時の離職票は通常の退職時とは大きく異なります。最も重要な違いは離職理由が「会社都合」となることです。これにより従業員は「特定受給資格者」として扱われ、失業給付において以下の優遇措置を受けることができます。
まず、給付制限期間の短縮です。2025年4月の雇用保険制度改正により、自己都合退職の場合は7日間の待期期間後に1ヶ月間の給付制限期間が設けられますが、倒産などの会社都合の場合は、7日間の待期期間のみで給付制限はありません。
また、給付日数についても手厚い保護があります。被保険者期間や年齢に応じて、自己都合退職よりも長期間の給付を受けることが可能となっています。
実務の流れ:期限「10日以内」の遵守と必要書類
手続きのタイムライン
倒産時の離職票手続きには厳格な期限があります。従業員の離職日(通常は解雇日)の翌日から起算して10日以内に、会社は管轄のハローワークに必要書類を提出しなければなりません。この期限は法的義務であり、遅延すると罰則の対象となる可能性があります。
実際の手続きの流れは以下のようになります。まず、従業員への解雇通知と同時に離職票の必要性を確認します。倒産の場合、従業員は基本的に全員が離職票を必要とするでしょう。次に、雇用保険被保険者離職証明書を作成し、必要な添付書類とともにハローワークに提出します。ハローワークで確認後、離職票-1と離職票-2が交付されるので、これを従業員に交付します。



必要書類の準備
離職証明書の作成には、賃金台帳、出勤簿、労働者名簿などの基本的な労務管理書類が必要です。特に賃金台帳については、離職日以前の賃金支払状況を正確に記載する必要があるため、最低でも過去2年分は準備しておくべきです。
倒産の場合、会社の資料が散逸している可能性もありますが、可能な限り正確な記録を収集することが重要です。不明な部分がある場合は、その旨をハローワークに相談し、適切な対処方法を確認しましょう。



管財人・弁護士との連携
法人破産の場合、破産管財人が選任された後は、離職票の手続きも管財人の管理下で行われることになります。破産申立代理人の弁護士や破産管財人と密接に連携し、従業員への離職票交付が確実に行われるよう配慮する必要があります。
すでに事業所が閉鎖されている場合は、破産申立代理人の事務所から従業員の自宅に郵送等で離職票を交付することも一般的です。この場合、従業員の正確な住所を事前に把握しておくことが重要となります。
作成時の重要事項:離職理由と賃金記載の正確性
離職理由の正確な記載
倒産時の離職票で最も重要なのは離職理由の正確な記載です。倒産による解雇の場合、雇用保険法施行規則に定められた離職理由コードに従って適切に分類する必要があります。
一般的に倒産の場合は「会社都合による離職」として、具体的には「倒産」「事業主都合による解雇」などのコードが使用されます。この記載が誤っていると、従業員の失業給付に大きな影響を与えるため、細心の注意を払って記載しましょう。

賃金支払状況の記載
離職票-2には、離職前の賃金支払状況を詳細に記載する必要があります。これは失業給付の金額を算定する基礎となるため、正確性が求められます。
倒産直前に賃金の遅配が発生している場合でも、実際に支払われた金額と支払日を正確に記載することが重要です。未払賃金がある場合は、その旨も適切に記載し、従業員が未払賃金立替払制度などの利用を検討できるようにしましょう。
【関連情報:未払い賃金の取り扱いと税務】 離職票の正確な賃金記載は重要ですが、倒産時には未払い賃金の計算と源泉徴収票の発行でも特有の落とし穴があります。特に、破産財団からの支払い分を源泉徴収票に含めるかどうかの判断は重要です。詳しくは「倒産時の未払い賃金と源泉徴収票発行時の注意点」をご参照ください。
経営者の配慮:迅速な手続きと従業員への説明責任
迅速な手続きの重要性
倒産により職を失った従業員にとって、失業給付は生活を維持する重要な収入源となります。そのため、離職票の手続きは可能な限り迅速に行うことが求められます。
法定の10日以内という期限を守ることはもちろん、可能であれば更に早期の手続き完了を目指しましょう。これにより従業員は速やかにハローワークでの失業給付申請を行うことができます。

法的責任:事業主の交付義務と2025年制度対応
事業主の義務
離職票の作成・交付は事業主の法的義務です。特に59歳以上の従業員については、本人の請求がなくても離職票の交付が義務付けられています。また、その他の従業員についても、本人から請求があった場合は必ず交付しなければなりません。
この義務を怠った場合、雇用保険法により罰則が科される可能性があります。倒産という困難な状況であっても、この義務は免除されないため、確実に履行する必要があります。
2025年の制度変更への対応
2025年1月20日から、マイナポータルで離職者が直接離職票を取得できる仕組みが開始されましたが、事業主側の手続き義務に変更はありません。引き続き従来通りの手続きが必要となります。
また、雇用保険制度については継続的に改正が行われているため、最新の制度内容については厚生労働省やハローワークの公式情報を確認することが重要です。
まとめ:専門家と連携し、迅速に進める重要性
倒産時の離職票手続きは、従業員の生活を左右する極めて重要な業務です。法的な期限を守り、正確な内容で作成することは事業主としての最後の責任と言えるでしょう。
手続きには専門的な知識が必要な部分も多いため、社会保険労務士や弁護士などの専門家と連携しながら進めることを強くお勧めします。また、破産手続きを行う場合は、破産申立代理人や破産管財人との密接な協力が不可欠となります。
困難な状況の中でも、従業員への最後の配慮として、適切で迅速な離職票の手続きを心がけていただければと思います。従業員が新たなスタートを切るための重要な第一歩となる離職票を、責任を持って作成・交付することが経営者としての最後の務めとなるでしょう。
倒産時に必要な手続き:総合的な対応が重要です
倒産時の離職票を適切に作成し、従業員の生活をサポートするためには、以下の要素が不可欠です。
- 正確な未払賃金の計算: 離職票に記載する賃金額の基礎となる給与計算を正確に行うことが重要です。未払賃金の法的な扱いや計算方法の詳細は、未払賃金についてをご覧ください
- 適切な税務処理: 離職票と併せて源泉徴収票の発行も必要です。税務書類の作成と注意点については、源泉徴収票の発行についてで解説しています
- 立替払制度の活用: 未払い賃金が発生している場合、国の立替払制度を利用できます。制度の詳細や申請手続きについては、立替払制度についてをご覧ください
【実体験】元経営者が直面した離職票対応の「4つのリアルな壁」

私の場合、離職票の作成はすべて社労士にお任せしていました。倒産した時もこれまで通りお任せするつもりだったのですが、よく考えたら無理な状況です。破産の申し立てをした会社と契約を継続するなんて。
しかし、お付き合いしていた社労士さんは快く「最後までお付き合いしますよ。」といって下さり、契約の延長という形で引き受けてくれました。本当にありがたかったです。
従業員からの切実な確認
一部の社員から「会社都合扱いでちゃんと処理してくれますよね?」と質問がありました。こちらとしては当然そうするつもりでしたが、その問いかけに胸が痛みました。倒産は経営者にとっても辛い決断ですが、従業員にとってはもっと切実な問題です。
必要書類の収集に大苦戦
また、賃金台帳や出勤簿などの必要書類を揃えるのも大変でした。自分が担当を引き継いだ時点で、かなり分かりやすいように整理はしていたものの、漏れなく揃えるとなると上手くいかないものです。そういったドタバタは倒産による心のダメージを紛らわせてくれましたが、それでも当時の焦りは大変なものでした。
問い合わせ対応の精神的な負担
破産管財人が選任されると、問い合わせの窓口もそちらに移行するのですが、それまで従業員からの問い合わせはすべてこちらに来ます。「手続きは進んでいますから安心してください」と伝え続けるのは精神的にきつかったです。
最後に残る責任
倒産時の離職票を発行する手続きは、会社を閉じる中でも”最後の責任”のひとつでした。制度としては整然としていますが、現場は泥臭く、人の感情が渦巻いています。この経験を踏まえて言えるのは、離職票の対応は、焦らずに・できるだけ早く・専門家と連携して進めることが、従業員のためにも自分のためにもなるということです。
改めて強調いたしますが、本記事は一般的な情報提供であり、実際の手続きにあたっては、必ず専門家にご相談いただくとともに、最新の法令・制度については関係機関にご確認ください。
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