倒産時の未払い賃金と源泉徴収票の注意点：失敗から学ぶ実務のポイント

会社が倒産すると、従業員への未払い賃金や源泉徴収票の発行など、さまざまな実務が発生します。特に、未払い賃金の計算や源泉徴収票の作成は、正確性が求められる重要な作業です。しかし、倒産という特殊な状況下では、通常の給与計算とは異なる注意点があり、思わぬミスを引き起こす可能性があります。

私自身、倒産時の給与計算で失敗を経験したので、その教訓をもとに、未払い賃金と源泉徴収票発行時の注意点を詳しく解説します。この記事では、倒産時の賃金計算の流れや、源泉徴収票の作成で気をつけるべきポイント、そしてミスを防ぐための実践的な対策を紹介します。

1. 倒産時の未払い賃金とは？その計算の重要性

会社が倒産した場合、従業員に支払われていない賃金（未払い賃金）が発生することが一般的です。未払い賃金は、破産法に基づき、会社の残存資産から優先的に支払われる債権として扱われます。このため、破産手続きの早い段階で、破産管財人や弁護士から未払い賃金の総額とその計算明細の提出を求められることがあります。

私の場合、給与計算を兼務していたため、破産申請後に弁護士から未払い賃金の詳細な明細を提出するよう指示されました。給与計算ソフトを使用してデータをまとめ、比較的スムーズに提出できたものの、この段階では特に問題はありませんでした。しかし、後に源泉徴収票の発行で大きなミスを犯してしまったのです。

未払い賃金の計算で押さえておくべきポイント

• 正確なデータ収集: 従業員ごとの未払い賃金の金額を正確に把握するため、給与明細や勤怠記録を整理しておくことが重要です。
• 優先順位の理解: 未払い賃金は「優先的破産債権」として扱われ、会社の資産から優先的に支払われます。計算ミスがあると、従業員や管財人に迷惑をかける可能性があります。
• 提出期限の確認: 破産管財人から求められた期限内に提出できるよう、事前にデータを整理しておきましょう。

2. 源泉徴収票発行時の落とし穴：私の失敗談

破産手続きが進む中、約2ヶ月後に従業員から源泉徴収票の発行依頼がありました。倒産前は通常通りの給与計算を行っていたため、「いつも通り作成すれば問題ないだろう」と軽い気持ちで給与計算ソフトを使って源泉徴収票を作成しました。しかし、ここで大きな問題が発生しました。

給与計算ソフトが自動生成した源泉徴収票には、未払い賃金が支払済みとして計算に含まれてしまっていたのです。これは大きなミスでした。なぜなら、未払い賃金は会社が直接支払うものではなく、破産財団（破産管財人が管理する財産）から支払われるため、会社の源泉徴収票には含めるべきではないからです。

このミスに気づかず従業員に渡してしまったため、源泉徴収票の数字が実際と異なり、従業員や税務署との間で混乱を招くリスクが生じました。深く考えずにソフトに頼ってしまったことが原因です。

3. 失敗から学んだ対策：源泉徴収票の正しい作成方法

この経験から、倒産時の源泉徴収票作成で気をつけるべきポイントを以下にまとめました。

3.1 未払い賃金を源泉徴収票に含めない

未払い賃金は破産財団から支払われるため、会社の源泉徴収票には含めず、倒産前の実際に支払った給与のみを反映する必要があります。私の場合、給与計算ソフトが未払い賃金を自動的に含めてしまう設定だったため、手作業で未払い賃金のデータを削除して源泉徴収票を再発行しました。

対策:

• 給与計算ソフトのバックアプ設定を確認し、未払い賃金の計算前後で2つのデータを用意する。
• 従業員ごとに未払い賃金のデータを手動で除外し、正確な源泉徴収票を作成する。

3.2 バックアップの重要性

未払い賃金のデータは、破産手続きの過程で再計算が必要になる場合があります。そのため、計算済みの未払い賃金データを削除する前に、別名で保存しておくことをおすすめします。私は「未払い賃金_バックアップ」としてファイルを保存し、後の作業で役立てました。

3.3 年末調整の設定に注意

給与計算ソフトで年末調整の設定が有効になっていると、源泉徴収票に不要な計算結果や数字が含まれることがあります。倒産時の源泉徴収票を作成する際は、必ず「年末調整をしない」設定に変更してください。これにより、余計な計算が反映されるのを防げます。

4. 倒産時の給与計算をスムーズに進めるためのコツ

倒産時の給与計算や源泉徴収票の発行は、通常の業務とは異なる特殊な状況で行われます。ミスを防ぎ、スムーズに進めるためには、以下のコツを実践するとよいでしょう。

• 事前準備を徹底する: 日頃から給与データや勤怠記録を整理し、すぐに取り出せる状態にしておく。
• 専門家と連携する: 破産管財人や弁護士と密に連絡を取り、提出書類の形式や期限を確認する。
• ソフトの仕様を理解する: 使用している給与計算ソフトの仕様は常に把握し、倒産時の特殊なケースに対応できるようにしておく。
• 従業員への説明を丁寧に: 源泉徴収票の発行遅延やミスがあった場合、従業員に状況を丁寧に説明し、信頼を損なわないよう配慮する。

5. まとめ：倒産時の未払い賃金と源泉徴収票の教訓

会社が倒産すると、未払い賃金の計算や源泉徴収票の発行など、複雑な実務が発生します。特に、源泉徴収票の作成では、未払い賃金が誤って含まれるリスクがあるため、給与計算ソフトの設定やデータの確認を徹底することが重要です。

私の失敗談を教訓に、以下のポイントを押さえておきましょう：

• 未払い賃金は破産財団から支払われるため、会社の源泉徴収票には含めない。
• 給与計算ソフトの設定を調整し、年末調整をオフにする。
• データのバックアップを忘れず、後の再計算に備える。

倒産は会社にとって厳しい局面ですが、従業員への責任を果たすためにも、正確な給与計算と書類作成が求められます。この記事が、倒産時の実務に悩む方の一助になれば幸いです。