この記事は、2025年に実際に倒産・破産を経験した筆者が、その過程で直面した資金繰りの実態、弁護士選びでの失敗、そして得られた教訓をまとめた実践的な内容です。
※筆者について:のぼる社長の倒産リアルブログ – プロフィール
導入:倒産手続きの「最初の壁」は弁護士費用だ
倒産を決意した時、経営者の精神的・金銭的な負担はピークに達します。しかし、手続きを進めるための最初の一歩で、ほとんどの人が「費用がない」という現実的な壁に直面します。この費用を捻出することは、単なる支出ではなく、経営者としての法的責任を全うし、未来を再建するための「必要経費」です。
私は知り合いの弁護士に相談できましたが、その弁護士の倒産案件の経験不足により、重要なアドバイスが欠けていたことを後から痛感しました。
本記事では、資金繰り経験者としての具体的な捻出戦略と、私の疑問から学んだ「経験豊富な弁護士の見極め方」を解説します。費用を乗り越え、法的に正しい再スタートを切るための指針としてください。
倒産手続きのコスト構造を知る:弁護士費用と予納金のリアル相場
まずは、いくら必要なのか、何にその費用が使われるのかという全体像を把握し、目標額を定めましょう。
弁護士費用と裁判所費用(予納金)の構成
弁護士への依頼には、主に弁護士費用と裁判所に納める予納金(管財人費用)の2種類が必要です。
| 費用項目 | 内容 | 倒産手続きでの重要度 |
|---|---|---|
| 着手金(弁護士費用) | 弁護士が業務に取り掛かるための費用。 | 高 |
| 破産管財人への引継予納金(裁判所費用) | 裁判所が選任する管財人の活動費用。負債額や事件の規模で大きく変動する、最大の資金準備項目。 | 最重要 |
| 実費 | 郵券代、交通費、印紙代など。 | 中 |
着手金の最低ライン
負債額や案件の難易度にもよりますが、弁護士が業務に着手するために最低限必要とする金額があります。
- 相場の目安: 個人破産であれば30万~50万円、法人破産であれば50万~100万円以上が目安となります。
- 専門家を選ぶメリット: 経験豊富な弁護士は、予納金の目安を早く正確に算出し、不必要に高額な予納金を避けてくれる可能性があります。
【資金繰り経験者が語る】月末を乗り越え、費用を捻出するための実践戦略
資金繰りで頭を悩ませてきた私だからこそ言える、「法的に問題を起こさず、費用を確保する」ための実践戦略です。
費用を「別枠」で確保する意識
私は、月末の支払いを優先しつつも、弁護士費用を「生き残りのための特別枠の資金」と位置づけ、別枠で確保する作業を行いました。
- 残高の正確な棚卸し: 会社と個人のすべての口座、手元の現金を正確に把握する。
- 優先順位の決定: 弁護士の指示を受け、法的に問題のない範囲で費用を捻出する。
実現可能で安全な捻出方法
売掛金・未収入金の回収強化
回収した売掛金などは未払い賃金や解雇予告手当、仕入れの支払い等を考慮して適切に配分します。債権回収は急ぐべきですが、特定の債権者への偏った支払い(偏頗弁済)を避けるため、回収した資金はすぐに弁護士に報告し相談しましょう。
法人契約の生命保険の解約
解約返戻金は、生活資金や弁護士費用に充当可能です。法人契約の生命保険に解約返戻金があるかすぐに確認し、弁護士と相談の上で解約してください。
役員退職金名目での捻出
⚠️ 必ず弁護士の事前承認と詳細な指導が必要です。
厳密な計算に基づき、生活に必要な最低限の資金と弁護士費用に充てるための退職金を設定します。相場を超えた不当な金額は免責不許可事由となり、破産手続きそのものが否認される危険性があります。 自己判断は絶対に避け、必ず弁護士の承認を得てから実行してください。
⚠️ 差し迫るリスク:滞納による「売掛金差し押さえ」の現実
弁護士費用を捻出する前に、社会保険料や税金の滞納がある場合は、何よりもそのリスクを優先して考慮しなければなりません。
経験の浅い弁護士は、このリスクの緊急性を軽視しがちですが、年金事務所や税務署は裁判所の手続きを経ずに会社の資産(特に売掛金や預金)を差し押さえる権限を持っています。
会社の売掛金が差し押さえられると、取引先に滞納の事実を知られるだけでなく、資金源が完全に途絶します。こうなると、弁護士費用どころか、もはや倒産手続きを開始する費用さえ捻出できなくなるという、最悪の事態を招きます。
【教訓】 弁護士への相談は、費用がないからとためらうのではなく、この差し押さえのリスクを回避し、残された資金を守るためにこそ、一刻も早く行うべきです。
⚠️ 個人の銀行口座の管理を徹底すること
経験の浅い弁護士だと見落としがちですが、破産手続きでは個人の銀行口座も厳しくチェックされます。
- 資金の出所の記録: 弁護士費用を捻出した口座の履歴が不自然に見えないよう、資金の流れと記録を明確に残すことが重要です。会社と個人の資金の区別はもちろん、私的な支出も不自然な高額出金がないか確認されます。
- 危険な行動の回避: 資産の隠匿や不当な優遇支払いは免責不許可事由に該当するリスクがあります。捻出は、必ず弁護士の指導のもとで行ってください。
公的支援制度「法テラス」の徹底活用ガイド
費用がない場合の公的支援制度である法テラス(日本司法支援センター)の利用可否について解説します。
- 法人破産は原則利用不可: 法テラスの民事法律扶助制度は、原則として法人(会社)の破産手続き費用には利用できません。
- 活用できるケース:
- 個人事業主の自己破産費用。
- 法人の代表者が負っている「個人保証債務」を処理するための自己破産費用。
- 利用の判断: 法テラスは分割返済が可能というメリットはありますが、審査に時間がかかるため、時間的猶予がない場合は、直接弁護士に相談した方が早い場合があります。
【実体験からの教訓】費用より重要!倒産案件で失敗しない弁護士の選び方
私の経験上、費用を捻出すること以上に「適切な弁護士を選ぶこと」が最も重要だと感じました。
知り合いの弁護士に依頼して感じた疑問
費用や相談のしやすさから知り合いの弁護士に依頼しましたが、その方は破産・倒産の案件経験が豊富ではありませんでした。
もっと経験豊富な弁護士だったら違ったのか?と感じた点:
銀行預金から現金を避難させるアドバイスは受けたものの、ローン残債の確認やNISA口座の扱いなど、個人資産の細かな管理に関する指導が不十分でした。
振り返って思うこと: 経験の浅い弁護士の場合、手続き開始前の経営者のリスク管理に関する助言が不十分な可能性があります。これらの対応が遅れると、手続きが難航したり、最悪の場合、破産手続きが否認される原因になりかねません。
経験豊富な弁護士を見極めるポイント
私の弁護士の経験: 倒産に関しては全部で3件程度という話でした。「0件よりはまし」と思って依頼しましたが、振り返ってみれば明らかに経験不足でした。
弁護士を選ぶ際は、以下の点を確認しましょう。
経験豊富な弁護士の特徴
私の弁護士との比較: 私が依頼した弁護士の倒産案件は全部で3件程度でしたが、専門的に倒産・破産を扱う法律事務所では、数千件から数万件の実績を持つところもあります。この差は歴然です。
事務所のホームページをチェック:
- 「倒産・破産」「事業再生」が主要業務として明記されている
- 具体的な解決事例や実績件数が掲載されている
- 破産管財人の経験がある(裁判所から選任される破産管財人は、経験豊富な弁護士が選ばれるため、これは重要な判断材料になります)
法人破産と個人破産の違いに注意: 大手の債務整理専門事務所では、数千件〜数万件の実績を公表しているところもありますが、これらは個人の自己破産が中心です。法人破産の場合は「法人破産の実績」を確認してください。
弁護士の探し方
- 日本弁護士連合会の検索サービス: 弁護士を探す(日弁連)で「倒産」「破産」などのキーワードで検索
- 各地の弁護士会の法律相談: 地域の弁護士会が行う法律相談を利用し、専門家を紹介してもらう
- 複数の事務所で初回相談: 最低でも2〜3の事務所で相談し、対応や説明の具体性を比較する
⚠️ 私からの教訓: 知り合いだからという理由だけで選ぶのは危険です。「相談しやすい」よりも「倒産案件の実績がある」を最優先にしてください。
まとめ:費用は再建への投資。今すぐ専門家に相談を
倒産手続きにおける弁護士費用は、あなた自身と、未来の再スタートの「命綱」を守るための先行投資です。
具体的な相談先の調べ方
- 日本弁護士連合会の相談窓口: 0570-783-110(平日10:00〜16:00)
- 各都道府県の弁護士会: 「〇〇県 弁護士会 法律相談」で検索
- 法テラス: 0570-078374(平日9:00〜21:00、土曜9:00〜17:00)
費用がないと諦める前に、まずはこれらの窓口で無料相談を利用し、あなたの資金状況と、法的に問題のない捻出方法についてプロの助言を求めてください。
そして何より、「倒産案件の経験が豊富かどうか」を最優先に弁護士を選びましょう。適切な専門家を見つけることが、最短で確実な再スタートへの道です。
【重要なお知らせ】
本記事は一般的な情報提供であり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な行動は必ず倒産・破産案件に詳しい弁護士に相談してください。

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