はじめに
自己破産後の「ブラックリスト」は、再スタートを切る上で避けて通れない最大の不安要素です。特に元経営者として、会社の破産と個人の自己破産という二重のプロセスを経験する場合、その情報の扱いはより複雑になります。
「いつまで記録が残るのか」「どうすれば消えたことを確認できるのか」「今の自分の状況はどうなっているのか」。
個人の免責確定を待つ中、実際に信用情報機関へ開示請求を行い、その手で受け取った「生の情報」をもとに、実務的な視点からブラックリストの回復期間と確認方法を解説します。
【結論まとめ】先に知っておくべき重要ポイント
信用情報の起算点
- 個人の破産手続開始決定日から計算開始(会社の破産日ではない)
保有期間
| 信用情報機関 | 主な対象 | 保有期間 |
|---|---|---|
| JICC / CIC | 消費者金融・カード会社 | 5年 |
| KSC | 銀行・信用金庫(官報情報) | 7年 |
※起算点:個人の破産手続開始決定日から
確認方法
| 項目 | JICC(アプリ) | KSC(Web) |
|---|---|---|
| 費用 | 700円 | 1,000円 |
| 受取日数 | 約3日(PDF) | 約4日(PDF) |
| 決済方法 | デビットカード等 | クレジットカード、キャリア決済等 |
| 本人確認 | 免許証アップロード | マイナンバーカード読取 |
- 両方ともネットで開示請求が可能
完全な信用回復
- 銀行融資を含めた完全回復には最短7年が必要
私の場合:倒産から個人破産までの流れ
まず、私自身の経験をもとに、会社の倒産から個人の破産手続きまでの時系列を整理します。会社の営業を終了した日を「Xデー」として振り返ると:
- Xデー:会社の営業終了
- 7日後:法人の破産申立
- 15日後:法人の開始決定
- 80日後(およそ2ヶ月半後):個人の破産申立
- 115日後(およそ4ヶ月後):個人の開始決定 ← ここが信用情報の起算点!
- 289日後(およそ9ヶ月半後):法人の免責確定
- 368日後(およそ1年後):個人の免責確定(予定)
ここで最も重要なのは、法人の手続きが終わっても、個人の信用情報には何の影響もないという事実です。信用回復のカウントダウンが始まるのは、あくまで「個人の自己破産手続開始決定日」からです。
私の場合、会社を閉じてから個人の開始決定まで約4ヶ月。この間、信用情報の「時計」はまだ動いていませんでした。
開示請求は意外と簡単、そして「現在地」が分かる
信用情報の開示請求は、クレジットカード、デビットカード、キャリア決済などで数百円〜千円程度払えば、数日で結果が届きます。破産者でもデビットカードや電子マネーを使えば問題なく手続きできます。
そして、実際の報告書を見ることで:
- 「契約中」なのに「破産申立」のフラグが立っている矛盾
- 「残高0円」でも事故情報は消えないという現実
- 銀行系の入金履歴に刻まれる「×」印の冷徹さ
こうした「自分の現在地」を数字と記号で確認できることが、漠然とした不安を具体的な計画に変える第一歩になります。
なぜ免責前に信用情報を調べたのか
個人の免責確定を待つ中、Xデーからおよそ10ヶ月後、ふと「現在の自分の信用情報はどうなっているのか」と気になりました。
ネットで調べると情報が錯綜していて、「5年で消える」「7年かかる」「官報情報は10年」など、様々な情報が飛び交っています。漠然とした不安を抱えるよりも、自分の現在地を数字で確認したい。
同じ状況にある人に「実際の開示報告書はこうなっている」という生の情報を届けたい。そう思い、信用情報機関への開示請求を決めました。
自己破産後のブラックリストはいつ消える?回復期間の真実
一般に「ブラックリスト」と呼ばれますが、実際には信用情報機関に「異動情報(事故情報)」が記録されている状態を指します。
日本には主に3つの信用情報機関があり、それぞれ情報の保持期間が異なります:
JICC(日本信用情報機構)
消費者金融やカード会社が中心。保有期間は5年。
公式サイト:https://www.jicc.co.jp/
CIC(シー・アイ・シー)
信販会社やカード会社が中心。保有期間は5年。
公式サイト:https://www.cic.co.jp/
KSC(全国銀行個人信用情報センター)
銀行や信用金庫が中心。保有期間は7年(官報情報)。
公式サイト:https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/
銀行融資までを含めた完全な信用回復を目指すなら、最短でも7年間は事故情報が残る覚悟が必要です。この「5年・7年」という数字を把握することで、漠然とした不安を「具体的な計画」に変えることができます。
実録:ネットで完結した開示請求の手順
JICC(日本信用情報機構)
申込方法:専用スマホアプリを使用
手数料:700円
支払方法:クレジットカードやデビットカードで決済(破産者でもデビットカードは使えます)
本人確認:運転免許証をアップロード
結果:申込から3日後にメールでPDF受け取り
非常にスムーズでした。アプリの操作も分かりやすく、特に迷うことはありませんでした。
KSC(全国銀行個人信用情報センター)
申込方法:公式Webサイトから
手数料:1,000円
支払方法:クレジットカード、デビットカード、キャリア決済など(au PAYなどの電子マネーも利用可能)
本人確認:マイナンバーカードをスマホで読み込み(ここが少し面倒)
結果:申込から4日後にメール通知
JICCと比べると、マイナンバーカードをスマホに読み込ませる手順があり、やや手間がかかりました。カードの読み取りがうまくいかず、何度かやり直した記憶があります。
そして、ここで事件発生。
KSCのサイトには「結果は1週間程度かかる」と書いてあったので、気長に待っていたところ、4日後にはすでに結果が届いていました。しかし、そのメールは迷惑メールフォルダに入っていたのです。
「まだ来ないな」と思って10日後くらいに確認したら、とっくに届いていたという…。これから開示請求をする方は、迷惑メールフォルダも必ずチェックしてください。
CIC(シー・アイ・シー)
CICも試みましたが、何度かトライしてうまく開示できず、諦めました。完璧を求めすぎず、JICCとKSCの2つで十分だと判断しました。
開示報告書を読み解く:JICCの現実
実際に届いたJICCの報告書には、10社分の契約情報が記載されていました。
「契約中」なのに「破産申立」の矛盾
最も衝撃的だったのは、「契約中」という表記です。
破産したはずのカードが「契約中」のまま残っている。しかし、よく見ると備考欄に「破産申立」というフラグが刻まれています。これは手続き中のリアルな停滞を示すものです。
ステータスが「契約中」であっても、備考欄に「破産申立」と記載されていれば、それがブラックの決定的な証拠となります。
「残高0円」という幻想
「残高0円」という数字に惑わされてはいけません。
残高が0円でも、事故情報は消えません。右端の備考欄に「破産申立」「元本・手数料遅延」といった文言が残っている限り、その契約は「異常終了」として記録され続けます。
「契約終了」の記載
一方で、一部の契約には「契約終了」と明記されているものもありました。これは正常に契約が終了したことを示しますが、破産の記録そのものは保有期限まで残り続けます。
保有期限は自分で計算する
開示報告書を見て気づいたのは、「○年○月○日まで保有」という具体的な期限日は書いていないということです。
書いてあるのは「契約日」「契約終了日」などの情報のみ。つまり、「個人の開始決定日から5年後/7年後」を自分で計算する必要があります。
計算例:
たとえば、個人の破産手続開始決定日が2024年5月1日だった場合:
- JICC・CIC(5年後):2029年5月1日頃まで保有
- KSC(7年後):2031年5月1日頃まで保有
この日付をカレンダーやスマホのリマインダーにメモしておくことをお勧めします。「あと○年」という漠然とした感覚ではなく、具体的な日付で管理することで、計画的な再スタートが切れます。
銀行系の冷徹な記録:KSCの現実
KSC(銀行系)の記録は、さらに厳格でした。
記載されていたのは2社
私の場合、KSCには2社の記録が残っていました:
- 1社:以前に完済済みの契約
- 1社:銀行の自動車ローン
入金履歴の「×」印
KSCの特徴は、入金履歴が詳細に記録されていることです。
正常な支払いの「○」が並ぶ中、支払いが止まった月に突如として「×」印が刻まれます。これが銀行が下した「事故」の判定です。数字の羅列の中に現れる「×」は、ある意味で非常に冷徹な記録と言えます。
「代位弁済」という言葉
銀行が回収を諦め、保証会社が代わりに支払った事実を示す「代位弁済」という言葉。これが記載されている限り、銀行からの新たな融資は7年間、現実的には難しくなります。
預金口座のみの銀行は載りませんが、借入があった銀行はこのように事実を記録し続けます。
【番外編】手続き中に「新しいカード」が届くという怪奇現象
実務の現場では、システム上の隙間で奇妙なことが起こります。
私の場合、破産手続きの真っ最中、Xデーから約9ヶ月後(10月末)に、期限切れに伴う「au PAY カード」の更新カードが自宅に届きました。
なぜこんなことが起きたのか。おそらく、カード会社が与信チェックを行った時点では、まだJICCやCICに「破産申立」の情報が反映されていなかったためでしょう。保証会社から信用情報機関への登録には、タイミングのズレが生じることがあります。
しかし、管財人のアドバイスは明快でした。
「絶対に使うな。使う段階でチェックが入り、免責判断に致命的な悪影響が出る」
カードが届いたからといって「許された」わけではありません。それは開けてはいけないパンドラの箱であり、誠実に手続きを進めることが再出発への最短距離なのです。
このカードは現在も保管したままです。
まとめ:自分の現在地を確認することの価値
信用情報開示請求を行い、自分のデータを数値と記号で確認したことで、私はかえって腹が据わりました。
闇雲に「ブラックリスト」を怖がるのではなく、「自分の現在地」を客観的なデータで確認すること。それこそが、破産という長いトンネルを抜け、確実な生活再建を果たすための「地図」になるのです。
開示請求は、クレジットカード、デビットカード、キャリア決済、電子マネーなど、様々な支払方法で手続きできます。破産者でもデビットカードや電子マネーを使えば問題ありません。結果は数日で届き、思っていたよりも簡単でした。
費用の目安:
- JICC:700円
- KSC:1,000円
- 合計:1,700円で自分の信用情報の全体像が把握できます
注意点: 結果通知のメールが迷惑メールフォルダに振り分けられるケースがあります。「まだ届かないな」と思ったら、必ず迷惑メールフォルダも確認してください。特にKSCは「1週間かかる」と案内されますが、実際は数日で届くこともあるので要チェックです。
信用情報が回復した”その後”はどうする?
信用情報が消えた後、すぐに元通りの審査が通るわけではありません。
回復後の現実:
- いきなり銀行の住宅ローンなどは難しい
- まずは消費者金融系やネット銀行系のカードから
- クレヒス(信用履歴)を少しずつ積み上げる必要がある
- 携帯電話の分割払いなど、小さな実績から始める
信用情報の「削除」はゴールではなく、新たなスタートラインです。焦らず、確実に一歩ずつ進むことが大切です。
(※今後、「自己破産後の生活再建ロードマップ」として、回復後の具体的なステップを別記事で詳しく解説予定です)
同じ状況にある方の参考になれば幸いです。
免責事項
この記事は筆者の個人的な体験に基づくものであり、法的なアドバイスを提供するものではありません。信用情報の取り扱いや破産手続きについては、必ず弁護士や司法書士などの専門家にご相談ください。信用情報機関の規定や保有期間は変更される場合があります。最新の情報は各機関の公式サイトでご確認ください。


コメント