【ご注意ください】
この記事は、筆者が自身の経験を通じて公的制度を調査した記録です。筆者は税理士や社会保険労務士などの専門家ではありません。
健康保険の扶養基準は、加入している健康保険組合によって大きく異なります。「所得(控除後)」で判定する組合もあれば、「収入(額面)」で判定する組合もあります。また、「一時的な収入」をどこまで除外するかも、組合の裁量によります。実際の手続きや判定基準については、必ず事前にご自身が加入している健康保険組合に確認してください。
年金・所得の計算方法は自治体によっても異なる場合があります。この記事の内容を参考にした結果について、筆者は一切の責任を負いかねます。
扶養だと思って病院に行った。そして計算してみた。
自己破産の手続きを進めている最中、私は家族の社会保険の扶養に入っていました。年金とアルバイトで月17万円の収入を得ながら、国民健康保険料を払わずに済んでいたのです。
ある日、膝が痛くて病院に行きました。扶養の保険証を出し、窓口で2,500円ほど支払いました。特に何も考えず、普通の受診でした。
それから数日後、ふと気になったのです。「今年、いくらぐらい収入があったんだろう?」
計算してみると:
- 前職の給与:35万円(1回)
- 年金:16万円×7回=112万円
- バイト代:2.5万円×4回=10万円
- 保険の解約返戻金:80万円
合計:237万円
「これ、扶養の基準を完全に超えてるんじゃ…?」
扶養から外れる基準は年収130万円。私は237万円。完全にアウトじゃないか。
さっき病院で使った保険証、大丈夫だったのか?後から医療費を返せと言われるのか?そもそも、いつから扶養から外れることになるのか?
気になるので、調べてみることにしました。
調べるほど分からなくなる「年収の壁」
検索すると、出てくる出てくる、「壁」だらけ。
- 103万円の壁:扶養控除が受けられるライン
- 106万円の壁:社会保険の加入義務が発生するライン(大企業など)
- 130万円の壁:健康保険の扶養から外れるライン
- 178万円の壁:配偶者特別控除が満額受けられるライン(2025年から)
どの記事を読んでも、「103万円を超えると扶養控除が…」「130万円を超えると国保に…」と書いてあるものの、どれも断片的。
私が知りたいのは、「通帳に237万円入ってる私は、今どうなってるのか?」という具体的な答えです。
記事によっては「給与収入」「年金収入」「一時的な収入」など、収入の種類ごとに扱いが違うと書いてある。でも、じゃあ私のケースは?
調べれば調べるほど、混乱していきました。
決定的な勘違いに気づいた:「通帳の金額 ≠ 扶養判定の収入」
混乱のピークで、知人に相談したところ、こう言われました。
「通帳に入った金額が全部『収入』じゃないよ。『所得』で計算するんだよ」
所得?収入と違うの?
調べてみると、税法上の「所得」は、収入から「控除」を引いた金額のことでした。
給与所得控除と公的年金等控除
給与や年金には、それぞれ「控除」があります。
- 給与所得控除:最低55万円
- 公的年金等控除:65歳未満でも最低110万円
つまり、私のケースでは:
給与収入:
- 前職の給与35万円 + バイト代10万円 = 45万円
- 給与所得控除55万円を引く
- 45万円 – 55万円 = マイナス → 所得0円
年金収入:
- 年金112万円(16万円×7回)
- 公的年金等控除110万円を引く
- 112万円 – 110万円 = 所得2万円
合計所得:0円 + 2万円 = 2万円
通帳ベースでは237万円だったのに、税法上の「所得」はたった2万円だったのです。
一時的な収入は扶養判定に含まれない
さらに重要なのが、「一時的な収入」の扱いです。
保険の解約返戻金80万円は、一時所得として扱われます。一時所得には50万円の特別控除があり、さらに利益が出ていなければ課税されません。
そして、健康保険の扶養判定では、「継続的な収入」だけが対象になります。
つまり:
- 前職の給与35万円 → 一時的な収入(除外)
- バイト代10万円 → 少額かつ一時的(除外される可能性大)
- 保険の解約返戻金80万円 → 一時的な収入(除外)
- 年金112万円 → 継続的な収入(これだけがカウントされる)
年金112万円は、130万円未満です。
つまり、今年は扶養から外れない。
少なくとも、「今年すでに使った扶養の保険証が無効になる」ということはありません。
今年はセーフだった。でも、来年は…
知人の説明を聞いて、私は一度安心しました。
「今年は大丈夫だったんだ」
すでに使った保険証も問題なし。扶養は継続できる。
しかし、知人は続けてこう言いました。
「でも、来年は確実にアウトだね」
来年の収入見込み:年金192万円
私は老齢年金の繰り上げ受給をしています。月16万円です。
今年は5月から受給を開始したので、7ヶ月分の112万円でした。しかし、来年(令和8年)は1月から12月まで、フルで受給します。
年金:16万円 × 12ヶ月 = 192万円
これは、130万円の壁を完全に超えています。
税法上も扶養アウト
さらに、税法上の扶養判定も変わります。
年金所得の計算(来年):
- 年金収入192万円
- 公的年金等控除110万円
- 192万円 – 110万円 = 所得82万円
税法上の扶養基準は「合計所得48万円以下」です。82万円はこれを超えています。
つまり、来年は:
- 社会保険の扶養 → アウト(130万円超え)
- 税法上の扶養 → アウト(所得48万円超え)
どちらもアウトです。
※ここから先は「来年以降の実務の話」です。「今年どうなるか」だけ知りたい人は読み飛ばしてOK。
来年から何が起きるのか
扶養から外れると、以下の負担が発生します。
1. 国民健康保険への加入
扶養から外れた瞬間、国民健康保険に加入しなければなりません。
保険料は前年の所得を基に計算されます。つまり、令和8年度の保険料は、令和7年の所得(2万円)で計算されるため、まだ軽いです。
しかし、令和9年度の保険料は、令和8年の所得(82万円)で計算されます。
試算すると、令和9年度の国保料は約11.5万円になります。
2. 住民税の負担
住民税も同じです。
令和9年度の住民税は、令和8年の所得82万円で計算されます。
- 課税所得:82万円 – 基礎控除43万円 = 39万円
- 所得割:39万円 × 10% = 3.9万円
- 均等割:0.5万円
- 合計:約4.4万円
3. 合計負担:年間約16万円
| 項目 | 令和8年度 | 令和9年度 |
|---|---|---|
| 国保料 | 約2.4万円 | 約11.5万円 |
| 住民税 | 約0.5万円 | 約4.4万円 |
| 合計 | 約2.9万円 | 約15.9万円 |
令和8年度は、前年所得が2万円なので、均等割のみの軽い負担で済みます。
しかし、令和9年度は一気に約16万円の負担が発生します。
月17万円の収入で生活している私にとって、この16万円は決して小さくありません。
「1年目は軽い」という罠
ここで最も危険なのが、「令和8年度は軽いから大丈夫」と油断することです。
令和8年度の負担は約3万円。これだけ見ると、「なんだ、大したことないじゃん」と思ってしまいます。
しかし、翌年の令和9年6月、突然16万円の請求が来ます。
この「1年遅れで本格負担が来る」という仕組みを知らないと、準備ができません。
私は今のうちから、令和9年度の負担に備えて、減免制度の研究を始めています。
減免制度という希望
国民健康保険料も住民税も、減免制度があります。
国保料の減免
多くの自治体には、「倒産・廃業による所得激減」を理由とする減免制度があります。
私のケース:
- 倒産前の年収:約420万円(役員報酬35万円×12ヶ月)
- 現在の年収:204万円(年金180万円 + バイト24万円)
- 減少率:51%減
この「著しい所得の減少」を理由に、減免申請をすることができます。
仮に3割減免が認められた場合、11.5万円 → 約8万円に軽減されます。
住民税の減免
住民税にも、同様の減免制度があります。詳しくは別記事「【実務解説】自己破産後の国保・住民税|減免で年6万円軽減」で解説していますが、倒産・廃業を理由とする減免申請により、全額または一部が減免される可能性があります。
よくある誤解
ここで、私が陥りかけた誤解を整理します。
❌「年金だから特別扱いされる?」
されません。
老齢年金は立派な継続収入として扱われます。「働いてないから扶養」という理屈は通用しません。
❌「破産したから配慮してもらえる?」
配慮はありません。
扶養判定は、あくまで「収入」と「所得」の数字で機械的に判断されます。事情は考慮されません。
❌「通帳に入った金額が全部カウントされる?」
されません。
「収入」と「所得」は違います。控除を差し引いた「所得」で判定されます。
また、「一時的な収入」は扶養判定から除外されます。
まとめ:今年はOKでも来年アウトは普通にある
私の経験から、以下のことが分かりました。
- 通帳の金額≠扶養判定の収入
- 「所得」で計算する
- 一時的な収入は除外される
- 今年はセーフでも来年アウトはあり得る
- 年金の受給開始時期によっては、初年度だけセーフ
- 翌年から確実にアウト
- 「1年目は軽い」という罠
- 令和8年度は前年所得が少ないため負担が軽い
- しかし令和9年度は一気に跳ね上がる
- 減免制度を使えば年間6万円の軽減
- 「知っているか否か」で差がつく
- 倒産・廃業を理由とする減免申請が可能
同じ状況の人へ
もしあなたが年金を受給しながら扶養に入っている場合、以下を確認してください。
- 年金の月額×12ヶ月を計算する
- 130万円を超えているか?
- 一時的な収入と継続的な収入を分ける
- 継続的な収入だけで130万円を超えているか?
- 「今年は大丈夫」でも来年は要注意
- 年金受給開始の初年度は月数が少ないため、翌年が本番
- 令和9年度の負担に備える
- 減免制度の有無を自治体のホームページで確認
- 必要書類を今のうちに準備
扶養は「感覚」ではなく「制度」です。
数字で判断されます。不安なら、健康保険組合に問い合わせるのが最も確実です。
【この記事について】
この記事は、筆者の個人的な経験と調査に基づいた記録です。
健康保険の扶養基準は、加入している健康保険組合によって大きく異なります。「所得(控除後)」で判定する組合もあれば、「収入(額面)」で判定する組合もあります。また、「一時的な収入」の扱いも組合の裁量によります。
年金・所得の計算方法も自治体によって異なる場合があります。
実際の手続きや申請については、必ず事前にご自身が加入している健康保険組合または市区町村の窓口で最新情報をご確認ください。
この記事の内容を参考にした結果について、筆者は一切の責任を負いかねます。

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