はじめに:動産担保って何?知っておきたい基礎知識

会社経営をしていると、資金調達のために様々な担保を設定することがあります。多くの方がご存知なのは「不動産担保」ですが、実は「動産担保」という仕組みもあるんです。
動産担保とは、土地や建物などの不動産以外の財産(商品在庫、機械設備、売掛債権など)を担保にする制度のこと。今回は、私の会社が実際に倒産した際に経験した、商品在庫の動産担保処理について詳しくお話します。
この記事は、経営者の方はもちろん、取引先との関係や担保制度について理解を深めたい方にも参考になる内容です。
私の会社で動産担保設定に至った経緯
従来の不動産担保だけでは足りなくなった状況
銀行からお金を借りる際、まず検討されるのが不動産担保です。私の会社でも、会社の土地建物に加えて私の自宅も担保に入れていました。しかし、銀行への借金が多額になり業績も悪化してくると、銀行だけでなく仕入先も警戒を始めるものです。
仕入先からの与信厳格化
私の会社は、特定の仕入先に大きく依存した事業構造でした。毎月の支払額もかなり多額で、請求書通りにきちんと支払いを続けていたものの、ある時「与信が厳しい」と言われてしまったのです。
しかし、担保になる不動産はすでに出し尽くしており、追加の担保提供が困難な状況でした。

動産担保設定の決断
そこで浮上したのが、倉庫にある商品在庫を担保にするという選択肢でした。これが「不動産担保」に対する「動産担保」です。
動産担保の特徴:
- 一度契約すると、解除の話が出ない限り毎年自動更新される
- 在庫の増減に関わらず、その時点での全在庫が担保対象となる
- 設定は比較的簡単で、仕入先との合意があれば可能
この動産担保設定により、しばらくの間は通常通りの仕入れを継続することができました。
倒産発生!その時動産担保はどうなったのか
倒産時の在庫状況
残念ながら、この度私の会社は倒産に至ってしまいました。その時点で、私の会社の商品在庫は、その仕入先に対する買掛金の約40倍もの価値がありました。
「そんなに在庫があるなら、なぜ倒産したの?」と思われるかもしれませんが、それはまた別の話として、当時の私は次のように考えていました:
- 在庫を処分すれば仕入先に損失は出ない
- 負債の分を差し引いても、かなりの商品が残るのではないか
- うまく処理すれば相当な金額になりそう
しかし、現実は全く違いました。

衝撃の事実:全在庫が債権者のものに
管財人との話し合いを進める中で、驚くべき事実が判明しました。動産担保が設定された商品在庫は、すべてその仕入先(債権者)のものになったのです。
具体的な流れは以下の通りでした:
- 仕入先に会社倒産の連絡が届く
- 仕入先から管財人に「担保権を実行する」と連絡
- その時点で、商品在庫の所有権がすべて仕入先に移転
買掛金の40倍もの価値があった在庫も、債務額に関係なく、すべて仕入先の所有となったのです。
動産担保権実行の仕組みと注意点
担保権実行とは何か
担保権実行とは、債務者(借りている側)が返済できなくなった場合に、債権者(貸している側)が担保物件を処分して債権回収を図る法的手続きのことです。
動産担保の場合、以下の特徴があります:
- 全部取得:債務額に関係なく、担保設定された動産すべてが債権者のものになる
- 即時性:担保権実行の意思表示により、即座に所有権が移転する
- 責任転嫁:所有権と共に管理責任も債権者に移る
債権者側のリスク:管理責任の発生
「債権者は得をした」と思われがちですが、実はそう単純ではありません。商品在庫の所有権を取得すると、同時に管理責任も発生するからです。
具体的なリスク:
- 商品の保管費用
- 処分費用(売れない商品の場合)
- 期限切れ商品の廃棄費用
- 倉庫賃料などの維持費
例えば、粉飾決算で帳簿上の価値を上げていた「実質ゴミ同然の在庫」だった場合、債権者は処分費用を自己負担しなければなりません。

担保権放棄という選択肢
実は債権者には、担保権を実行せずに放棄するという選択肢もあります。放棄した場合:
- 管理責任は発生しない
- 在庫は管財人が処理する
- ただし、債権回収の機会は失う
今回のケースでは、仕入先が早々に担保権実行を宣言したため、管財人としては手間が省けたという状況でした。
実際の処理過程と結果
在庫確認と処理の実際
幸い、私の会社の商品在庫は「ゴミ」どころではない優良在庫でした。しかし、多くが期限のあるタイプの商品だったため、大急ぎでの処理が必要でした。
処理の流れ:
- 仕入先と管財人の立ち会いで在庫確認
- 商品の品質・価値評価
- 販売・処分方法の決定
- 実際の換金作業
初回の確認時には、仕入先の担当者も「大変なものを引き受けてしまった」という表情でしたが、最終的には多数の業者に手伝ってもらい、適切に処理することができました。
学んだこと:動産担保の実態
今回の経験で明らかになったのは、動産担保権の実行は、債務額に関係なく全所有権が移転するという事実でした。これは多くの経営者にとって意外な結果かもしれません。
動産担保を理解するための基礎知識
動産担保の種類
動産担保には主に以下の種類があります:
1. 商品在庫担保
- 製品、商品、原材料などを担保とする
- 流動的な担保(入れ替わりが激しい)
- 評価が困難な場合が多い
2. 機械設備担保
- 生産設備、車両などを担保とする
- 比較的価値が安定している
- 償却により価値が減少する
3. 売掛債権担保
- 将来入金予定の売掛金を担保とする
- 回収リスクを考慮する必要がある
- ファクタリングとは異なる仕組み
動産担保のメリット・デメリット
メリット:
- 不動産がなくても担保設定可能
- 手続きが比較的簡単
- 事業継続しながら担保活用できる
デメリット:
- 価値評価が困難
- 管理が複雑
- 全部取得のリスク

他の担保制度との比較
不動産担保との違い
項目 | 不動産担保 | 動産担保 |
---|---|---|
価値の安定性 | 高い | 変動しやすい |
評価の容易さ | 比較的容易 | 困難 |
管理の複雑さ | 簡単 | 複雑 |
実行時の処理 | 競売など | 現物取得 |
人的保証との比較
動産担保は物的担保の一種で、人的保証(連帯保証など)とは性質が異なります:
- 物的担保:特定の財産で債務を担保
- 人的保証:個人の信用で債務を担保
経営者が知っておくべき注意点
契約時の注意事項
動産担保を設定する際は、以下の点に注意が必要です:
- 担保対象の明確化:何を担保にするか具体的に定める
- 評価方法の取り決め:在庫の評価基準を明確にする
- 更新条件の確認:自動更新の条件を理解する
- 実行条件の把握:どのような場合に実行されるか確認
リスク管理の重要性
- 定期的な在庫管理と価値評価
- 代替担保の検討
- 財務状況の定期的な見直し
- 取引先との良好な関係維持
取引先・債権者の立場から見た動産担保
債権者のメリット
- 優先的な債権回収が可能
- 具体的な担保物件がある安心感
- 倒産時の損失リスク軽減
債権者が注意すべき点
- 管理責任の発生
- 処分費用の負担可能性
- 在庫価値の変動リスク
- 専門知識の必要性

まとめ:動産担保の実態を知って適切な判断を
今回の実体験を通じて、動産担保制度の実態が明らかになりました。重要なポイントをまとめると:
経営者への教訓
- 全部取得の原則:債務額に関係なく全在庫が移転する
- 自動更新の恐ろしさ:一度設定すると解除まで継続
- 評価の重要性:在庫価値の適切な把握が必要
- 代替手段の検討:他の資金調達方法も並行検討
取引先・債権者への示唆
- 管理責任の認識:所有権取得と共に責任も移転
- 放棄という選択肢:必ずしも実行する必要はない
- 専門知識の重要性:適切な判断には知識が必要
一般の方への情報
動産担保は身近な制度です。以下の場面で関わる可能性があります:
- 会社員として勤務先の財務状況を理解する
- 投資判断の参考情報として
- 取引先の信用度評価に活用
- 自身の事業を始める際の参考として
おわりに
この記事が、動産担保制度について理解を深める助けになれば幸いです。私の経験が皆さんの参考になることを願っていますが、同時に「あなたの参考になりませんように」という気持ちも込めて。
適切な知識を持って、賢明な経営判断を行っていただければと思います。
※この記事は実体験に基づいていますが、法的判断については専門家にご相談ください。また、制度の詳細は改正される場合がありますので、最新情報をご確認ください。
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