はじめに
でんさい(電子記録債権)のサービスが始まったのは、2013年2月です。全国銀行協会が運営する「でんさいネット」が、手形のデジタル化を実現しました。
私がその存在を知ったのは、2022年頃。サービス開始から9年も経っていました。
私の会社は、かつて売上最大19億円を誇る製造業でした。しかし2022年には3〜4億円まで縮小し、資金繰りに苦しんでいました。
毎月2枚の為替手形を切り、繁忙期には1,000万円を超える約束手形を複数枚に分けて切っていました。
また、大口取引先からは月の売上の約半分を手形で受け取り、それを銀行で割引して月10万円の割引料を払っていました。
でんさいを使えば、印紙代や手形管理の手間を削減できたかもしれません。
でも私は「よく分からない」「優先順位が低い」と放置しました。手形を切るのが好きだったし、昭和感があって心地よかったのです。
そして2025年初旬、私の会社は倒産しました。
特にでんさいを使わなかったから倒産したわけではありませんが、選択肢として知っておいても良かったでしょう。
2027年3月末、紙の手形は完全に廃止されます。 より正確には、2027年4月から電子交換所における手形・小切手の交換が廃止されます。以降は各金融機関が個別に取立てを行うことになり、手数料や取扱いが大きく変わる可能性があります。残された時間は少なくなっています。
この記事では、手形を使い続けた元経営者の視点から、でんさいとは何か、手形とどう違うのかを解説します。
でんさいとは何か
でんさい(電子記録債権)とは、簡単に言えば**「紙の手形のデジタル版」**です。
従来の約束手形や為替手形は紙で発行され、現物を管理する必要がありました。でんさいは、この手形取引をインターネット上で完結させる仕組みです。
でんさいの正式名称と仕組み
正式には「電子記録債権」と呼ばれ、専門の記録機関(でんさいネット)に債権・債務を電子記録することで成立します。
2008年に電子記録債権法が施行され、2013年2月に全国銀行協会が「でんさいネット」のサービスを開始しました。
私がでんさいを知らなかった理由
私がでんさいの存在を知ったのは、サービス開始から9年も経った2022年頃でした。
当時、前任の経理担当者が「でんさいネット」につばだけ付けていたようですが、私は必要性を感じませんでした。
理由は単純です:
- やることが多くて、優先順位が低かった
- 興味がわかなかった
- 手形を切るのが好きだった(昭和感があって心地よかった)
- 「手形廃止になったら考えよう」と思っていた
電気式の手形刻印機が壊れたとき、わざわざ手動でくるくる回してガチャガチャ押すタイプを買いました。このアナログな作業が、なぜか好きだったのです。
結果的に、手形廃止を待たずに倒産してしまいましたが。
でんさいと手形の違い
でんさいと手形の基本的な違いを表にまとめました。
| 項目 | 手形 | でんさい |
|---|---|---|
| 媒体 | 紙 | 電子データ |
| 紛失・盗難リスク | あり | なし |
| 印紙代 | 必要(金額により200円〜) | 不要 |
| 分割 | できない | できる |
| 発行の手間 | 手形帳・刻印機が必要 | インターネットで完結 |
| 保管・管理 | 現物の保管が必要 | システムで自動管理 |
| 譲渡 | 裏書譲渡(現物が必要) | 電子的に譲渡可能 |
| 割引 | 銀行や業者に持ち込み | オンラインで申込可能 |
私の手形体験:昭和感が好きでした
私は倒産まで手形を使い続けました。
毎月2枚の為替手形を資材業者への支払いに切り、繁忙期には材料仕入れのために約束手形を切っていました。
手動のガチャガチャ式の刻印機で手形を切る。この昭和感が、なぜか心地よかったのです。
でも今思えば、完全に時代遅れでした。でんさいならインターネットで数クリックで終わる作業を、わざわざ手間をかけてやっていたわけです。
でんさいのメリット(受取側)
手形を受け取る側(売掛金を回収する側)にとって、でんさいには以下のメリットがあります。
1. 紛失・盗難リスクがゼロ
紙の手形は現物管理が必要です。紛失や盗難のリスクが常につきまといます。
でんさいは電子データなので、紛失や盗難の心配がありません。
2. 割引料が安くなる可能性
手形を期日前に現金化する「手形割引」には、手数料(割引料)がかかります。
私の場合、メインバンクで約2%の割引料を払っていました。通常月は500万円程度を割引していたので、月10万円、年間120万円の手数料を払っていた計算になります。
でんさいの場合、銀行によっては手形割引より低い手数料で資金化できる場合があります(ただし、銀行や取引条件によります)。
3. 期日管理が楽
手形は期日を手帳などで管理する必要がありました。期日を忘れて取立てが遅れると、資金繰りに影響します。
でんさいはシステムで自動的に期日管理ができるため、管理の手間が減ります。
私の場合:手形受取は現金化してもらいました
私は以前、大口取引先から月の売上の約半分を手形で受け取っていました。それをすべて割引して現金化していました。
しかし資金繰りが悪化した2020年頃、取引先に相談して現金払いに変更してもらいました。結果的に、月10万円の割引料負担がなくなりました。
(詳細は別記事「売掛金早期回収の実例|私の場合、最大取引先に相談して1.5ヶ月分資金改善」参照)
このため、2022年にでんさいの存在を知ったときには、もう受取手形はなくなっていました。でんさいの受取側のメリットは、私にとってはもう関係なかったのです。
これが、でんさいに興味がわかなかった理由の一つでもあります。
でんさいのメリット(支払側)
手形を振り出す側(買掛金を支払う側)にとっても、でんさいにはメリットがあります。
1. 印紙代が不要:中小企業なら誰もが嬉しい節約
手形には印紙税がかかります。金額によって印紙代が変わりますが:
- 100万円超〜200万円:400円
- 200万円超〜300万円:600円
- 300万円超〜500万円:1,000円
- 500万円超〜1,000万円:2,000円
- 1,000万円超〜2,000万円:4,000円
私は繁忙期に1,500万円前後の約束手形を切っていましたが、印紙代を節約するため、1,000万円を超えたら分けて切っていました。
例えば1,500万円なら、1,000万円(印紙代2,000円)と500万円(印紙代1,000円)の2枚に分けます。合計3,000円です。
もし1枚で切れば4,000円。たった1,000円の差ですが、中小企業の経営者なら誰もが気にするポイントです。
手形を複数枚に分ける手間を考えれば、完全に割に合いません。でも当時の私は「少しでも経費を削減したい」と必死でした。
でんさいなら印紙代はゼロ。こういう細かい計算をする必要もなくなります。
2. 手形刻印機や印鑑が不要
手形を切るには、手形帳、手形刻印機、銀行印が必要でした。
私は手形を切る作業に妙な愛着がありましたが、今思えば無駄な手間でした。
でんさいなら、インターネットで数クリックで完了します。
3. 分割機能で柔軟な支払い
手形は一度振り出したら、金額を分割できません。
でんさいは「分割機能」があり、例えば1,000万円の債権を500万円ずつ2社に譲渡する、といったことが可能です。
資金繰りの柔軟性が高まります。
私の場合:支払手形は倒産まで続けました
私は倒産まで手形を切り続けました。
- 為替手形:月2枚(資材屋への支払い)
- 約束手形:繁忙期に1,000万円超を複数枚に分けて(材料仕入れ)
でんさいを使えば、印紙代と手形管理の手間を削減できたはずです。
でも「よく分からない」「優先順位が低い」で放置した結果、最後まで手形を使い続けました。
でんさいのデメリット・注意点
でんさいにもデメリットや注意点があります。
1. 導入に手間がかかる
でんさいを利用するには、取引銀行を通じて「でんさいネット」に利用申込をする必要があります。
審査や手続きに時間がかかる場合があります。
2. 取引先も対応が必要
でんさいを使うには、取引先(支払側・受取側の両方)がでんさいネットに加入している必要があります。
取引先が対応していなければ、でんさいは使えません。
3. システム利用料がかかる
でんさいネットの利用には、基本料金や取引ごとの手数料がかかります。
銀行によって料金体系が異なりますが、月額数百円〜数千円程度の基本料金と、取引1件あたり数百円程度の手数料が一般的です。
手形の印紙代と比較して、どちらが得かは取引量によります。
4. 操作に慣れるまで時間がかかる
インターネットバンキングに慣れていない経営者にとっては、最初は操作が難しく感じるかもしれません。
私のように「手形のガチャガチャが好き」というアナログ派には、心理的なハードルがありました。
でんさいと経費削減の関係
でんさいは資金繰りの根本的な解決にはなりませんが、経費削減という点ではメリットがあります。
印紙代の削減
私の場合、繁忙期に1,500万円前後の約束手形を切っていました。1,000万円を超えたら分けて切っていたので、年間で数千円〜数万円程度の印紙代がかかっていました。
でんさいなら印紙代はゼロ。大きな金額ではありませんが、確実に削減できるコストです。
手形割引の手数料
受取手形を銀行で割引する場合、手数料がかかります。私は月500万円の手形を約2%で割引していたので、月10万円、年間120万円の手数料を払っていました。
でんさいの場合、銀行によっては手形割引より低い手数料で資金化できる場合があります(ただし、銀行や取引条件によります)。
手形管理の手間とコスト
手形帳の購入、刻印機のメンテナンス、現物の保管・管理など、目に見えにくいコストもありました。
でんさいならこうした手間がなくなり、経理担当者の負担も減ります。
ただし、あくまで「経費削減」レベル
でんさいで削減できるのは、印紙代や手数料、手形管理の手間といった細かいコストです。
私の会社は資金繰りが悪化して倒産しましたが、でんさいを使っていても倒産は防げなかったでしょう。
でんさいは経費削減にはなりますが、経営の根本的な改善にはなりません。 それでも、削減できるコストは削減しておくに越したことはありません。
まとめ:手形を使っている経営者へ
でんさいは2013年から存在しています。私が知ったのは2022年で、サービス開始から9年も経っていました。
私は「よく分からない」「優先順位が低い」で放置し、手形のガチャガチャを押し続けました。結果的に倒産しましたが、でんさいを使っていても倒産は防げなかったかもしれません。
でも、印紙代や手形管理の手間を削減できたはずです。選択肢として知っておくべきでした。
紙の手形は2027年3月末で実質的に廃止されます。
- 2025年9月末:手形帳の新規発行終了
- 2026年9月末:手形の振出期限
- 2027年4月:電子交換所における手形・小切手の交換廃止
- 以降は各金融機関が個別取立となり、手数料や取扱いが大きく変わる可能性
私のように「よく分からない」「優先順位が低い」で放置していると、移行の準備に慌てることになるかもしれません。
次に取るべき行動
手形を使っている経営者は、以下のステップででんさいへの移行を検討してみてはいかがでしょうか。
- 取引銀行に相談する:でんさいネットの利用方法、手数料体系、導入までの期間を確認
- 主要取引先の対応状況を確認する:取引先がでんさいに対応しているか、移行予定があるか
- 現状の手形コストを計算する:印紙代、割引料、手形管理の人件費など
- 専門家に相談する:税理士や会計士に、でんさい導入のメリット・デメリットを相談
まずは取引銀行に相談することから始めてみてください。
【この記事について】
これは一経営者の個人的体験談です。すべての企業や状況に当てはまるものではありません。
でんさいの導入は企業の資金繰りや経費に直結する重要な判断です。必ず税理士、会計士、取引銀行などの専門家にご相談の上で判断してください。
金融・財務に関する重要な判断を、この記事の内容だけで行わないようお願いいたします。また、この記事の内容を実行して生じた損害について、筆者は一切の責任を負いません。
資金繰りの選択肢を知っておくことの大切さ
経営の現場で資金繰りに悩んだ経験から、改めて思うのは「もっと早く選択肢を知っておけば」ということです。
私は当時、ファクタリングという仕組みをよく知らず、結果的にクレジットカードのキャッシングに頼ってしまいました。
もしその時に今の知識があれば、違う選択をしていたかもしれません。
もちろん、ファクタリングが万能の解決策ではありませんし、手数料も決して安くありません。しかし「選択肢として知っておく」ことは重要だと思います。
同じように資金繰りで悩む経営者の方に向けて、私が後から調べた情報をまとめた記事があります:
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⚠️ これらの記事も専門家の監修は受けていません。利用を検討される場合は、必ず税理士・会計士等の専門家にご相談ください。


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