私がまだ社長になる前に、参加していたあるセミナーで、講師がこう言い切ったことがありました。
「これだけの内部留保があれば、この会社は絶対に潰れません」
当時まだ会社に余裕があった頃の話です。内部留保が資本金の何倍あれば、という説明だったと思うのですが、肝心の倍率は覚えていません。ただ、自社がその基準を余裕で超えていたことだけは、はっきり覚えています。
「絶対に」という言葉への違和感と慢心
基準を超えていると言われれば、普通は安心するところです。ところが私は、「いくら貯金があっても、赤字が続けば潰れるじゃないか。この人は何を言っているんだ」と思いました。
その反面、違和感の裏には慢心もありました。「まぁ、今のところうちの会社は完全に安全圏ではある。」という気持ちが、同時にあったのです。疑いながら安心していたのですから、我ながら都合のいい話です。
内部留保は有限の体力
セミナーで話のあった内部留保というのは、過去に積み上げた利益の結果です。つまりこれまでの成績表であって、未来の保証ではありません。
1年や2年なら、たしかに潰れないでしょう。しかし「絶対」という言葉は、今この時点だけを切り取った評価にすぎません。会社は止まっていません。毎年少しずつ下がっていけば、悪夢はやってきます。
私が実際に経験したので自信を持って言えます。
絶対に潰れない会社 → 潰れない会社 → 安全な会社 → 普通の会社 → 改善が必要な会社 → 危険な会社 → 立ち直れない会社
毎年の変化は小さいので、階段を降りていることに気づきにくいのです。ゆでガエルの話は、【凋落の始まり】社長交代を告げられた朝|ゆでガエルの誕生日にも書きました。
バランスシートに載らない危険信号

では、他にどんな事で未来を予想できるのか?数字に出ていないけど、明らかな危険信号は目の前で点滅しています。
自社の外(市場と業界の動向)
自社の外には、市場の動向と業界の衰勢があります。自社の業界が斜陽だということは、私も分かっていました。予測は難しくなかったのです。市場の動向も厳しいものでした。大資本に押され、得意先はどんどん減少していく。明らかに大胆な改革が必要でした。
自社の中(人づくりの停滞)
自社の中にも、見るべきものがありました。社員は、最初は中堅と若手でした。その顔ぶれのまま、全員が歳を重ねていきました。新しい人はほとんど入らず、教育の仕組みもないまま年数だけが過ぎ、最後に残った元若手は、指示を待つ人たちのままでした。指示待ちにしてしまったのは、育てる仕組みを作らなかった私です。
人づくりについては、【松下幸之助の教え】モノづくりより人づくり|当たり前だと思っていた言葉の重さにも書きました。
世代交代が止まり、人を育てる仕組みがない。お金の地盤は厚くても、人の地盤は薄いままでした。この地盤の崩れは、バランスシートには一行も出てきません。
過去の失敗を活かすとしたら
その後、赤字は15期続き、会社は潰れました。図らずもあの講師の「絶対」という言葉に対する違和感を自分の会社で証明してしまったのです。
しかし、その事を講師に「ほら、私のほうが正しかった」とドヤるのかといえば、まったく意味がありません。
違和感を覚えていたのに対応しなかった、出来なかった自分を責めるしか無いのですが、それも今となっては仕方がありません。すでにページはめくられてしまいました。
今回のことでの気づきは「数字以外の本質的な弱点を見抜くことが大切」ということ。この先の自分の生き方にその気づきを活かすことが出来るか、あるいはこの記事を読んでいただいている方に少しでも参考になれば幸い、そんな気持ちです。


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